チーズの王者、エポワッスはさすが


何故エポワスがあれほどまでにまろやかで美味しいのか、わかった気がしました。
エポワスって、納豆とか古漬けとかくさやのように強烈に臭いものの代表選手が10個くらい寄せ集ったくらいインパクトがある臭いを発していながら、食べると一気にお花畑か天国か…と思うほどうっとりとした心地に浸れる、実に不思議な食べ物です。ここまで落差のある食べ物を私は知りません。敢えていうなら‘ドリアン’に近いものがあるかも。

私はブルゴーニュ地方のエポワス村にある「ベルトー社」のエポワスチーズの生産工場を訪ねました。ここの創立者は戦後絶滅しかけたエポワスを個人の力で復活させ、今やフランス国内だけでなく世界中にエポワスチーズを普及させた功労者で、今はその息子が社長をしています。

元来ナチュラルチーズというものは(特に伝統のあるチーズは)、人間と自然の力で作られるもので、工場などで大量にまた画一的に生産されるべきものではないのです。
今では農家製(フェルミエ)のチーズは数が減り(エポワスに関していえば大変数が少ないそうです)、工場製のものが市場のほとんどを占めています。

何故農家製は美味しいのでしょう?

それは工場製のものと違い衛生的に保たれた設備の整った施設ではなくいわゆる「農家」で作るということは、空気中に自然に漂っているカビや菌の作用を上手に利用したり、大量生産をしないので地元であるいは自分のうちで採れる無殺菌乳のミルクを使用したりして、ミルク内にもともと存在する様々な雑菌の複雑な作用により、味わい深い熟成を可能にするのです。

工場で作るには同じ品質のものをたくさん作らねばなりません。そうなると原料のミルクの質、添加する菌、管理する温度、もろもろのことをマニュアルに沿ってつくっていかなければなりません。現在多くのナチュラルチーズが殺菌乳を使用するようになり、チーズを作るのに必要な菌やカビをあとから添加するようになっているそうです。そうすると昔ながらの方法で作られてきたチーズとは形や見栄えは同じでも、味は全く違ったものができてしまいます。AOC(原産地統制名称制度)の制度はこのようなことで伝統的なチーズを保護する意味でもうけられています。

さてまた話ををエポワスに戻しましょう。

「工場製のチーズはおいしくない」と今言ったばかりですが、この工場では最新のハイテクを駆使してオートメーション化している部分と、伝統的な製法に乗っ取って手作業で丁寧にしている部分とが実に合理的に組み合わさっていました。
原料の生のミルクも組織を損ねないようポンプによって汲み上げるのは必要最低限の1回キリ、日によって品質の違うミルクがとどくのでミルクの分析をコンピューターで行ない、気温、振動、化学変化などには細心の注意をい、ミルクの温めも湯せんで時間をかけて…ととてもデリケートに扱っていました。(本来ここは人の手とカンで行う行程なのですが、この工場ではハイテク機器を駆使していました)
乳酸菌、凝乳酵素を添加しカードを切ったり型に詰めたりということは手作業でしていました。 そして型から出して塩漬け、乾燥作業は機械が。
そして熟成室(熟成室は北西の自然の風を取り入れる工夫をしていました。北西からの風(適当な湿度を含む)で乾燥させることはな方法なのだそうです)に移されて、チーズ表面にでてきた余分なカビなどを取り除くために行なう「洗い」の作業は人の手で行ないます。
このように必要最低限のことは人の手によってされ、伝統を守り、最新鋭の機械を備えていることがこの会社の自慢のようです。

私が訪ねたこの工場の製品はAOCの規定に乗っ取って生産されているため、「エポワス・ド・ブルゴーニュ」と名乗ることができます。
エポワスの詳しいプロフィールをご覧になりたい方はこちらをどうぞ。




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