ルブロッションがいっぱい


フランスのサヴォワ地方はスイス、イタリアの国境近くのアルプス山脈のあたりの地域です。 険しい山の中なので産業といえば昔から酪農によるチーズ作りくらいなもので、今でも冬はスキーなどの観光業、夏は放牧によるチーズ作りが盛んです。

今回、海抜1500mのアルプスの山中の山小屋で夏の間だけルブロション作りをしている農家を訪ねました。

麓の町から車で山道をずんずん上がっていくと、やがてあたりは「アルプスの少女ハイジ」の世界が広がってきます。険しい山の斜面には色とりどりの高山植物がまるでお花畑のように咲き乱れ、茶色の牛の群れがのんびりと草花を食んでいました。この地方の牛は身軽で足腰が強く、険しい山でもどんどん登っていくことができるそうで、夏場は自然の草花を食べさせるため高地に放牧しています。

訪ねた農家は37頭の牛を飼っていて、毎朝夕絞り立ての牛乳でルブロッションを作ります。牛の世話をするのはご主人の仕事、チーズを作るのは奥さんの仕事と分業されていました。
山小屋には牛小屋とチーズを作る作業小屋、そして家族の生活をする部屋がありました。
チーズ作りは工場と違いほとんど手作業で、搾った牛乳約380リットルを大きな鍋に入れ凝乳酵素が働きやすい温度(ここでは34℃くらい)に温め、酵素を入れて45分後に大きなカード切りで米粒大になるまでかき回しつづけます。(かなりの重労働)そして分離したホエーをバケツやちりとりですくい捨て、最後にこれまたバケツとちりとりで細かく粒状になったカードをすくい、チーズの型の並んでいるところに注ぎ入れます。荒く形を整えたら「農家製」の印となる緑色の楕円のシールをのせプラスティックの板と重しをしてひとまず作業はおしまい。
その後型から外したチーズは10日間ほど山小屋で熟成させてから農協へと熟成の場所を移し、約4週間後に出荷されます。その熟成期間中も毎日チーズを上下裏返したり、表面を洗ったりと手間暇がかかります。

それだけ手間暇かけて出来上がったルブロッション。
試食をさせてもらいましたがクリーミーでしっとりと柔らかく、羽二重餅のような感じでした。山小屋で作ったばかりのチーズは真っ白だったのに、完全に熟成させると表面は薄オレンジ色、中は濃いアイボリー色に変化しているのです。ミルクの中の微生物のなせる技なのですが、微生物がちゃんと活動できるように人間が人工的に環境を作ってやるのも大変なことなんだと、今回製造の一部始終を見て感じました。

最後に現地でしか絶対に食べることのできないルブロッションのフレ(出来たてで熟成していない真っ白いフレッシュタイプ)をごちそうになりました。「トム・ド・ブランシュ」と呼ばれているそうで、茹でたじゃがいもと共に塩・こしょうでシンプルに味を付けていただくそうです。 姿形は真っ白で、味はフレッシュで淡白なのですがミルクの味がまだほんのりとして、いつも食べるルブロッションとは全くの別物でした。
この地方の名物料理、「タルトフィレット」にはルブロッションをふんだんに使うのだそうですが、チーズと生クリームがポテトと良くあってとても素朴でおいしい料理でした。日本ではひとつ2000円以上するこのチーズで作るのはもったいない!!




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