インターネットを通じて知り合いになった二葉さんが、「毎年6月にフランスのチーズを訪ねる旅があってとてもいいよ」と話してくれました。彼女は過去２回のツアーにも参加していて毎年たくさん刺激を受けて帰ってきて、その経験を生かしてチーズを世の中に広める「啓蒙活動」を しているのです。（本職は別にあるのに、すごいパワーです！）

私も旅の話を聞く度に「行ってみたい」と思っていました。でも私はそんな環境にいないということもよくわかっていました。「子供が大きくなったら主人と一緒にフランスにはおいしい物を食べにいったり、ワインの醸造元を訪ねる旅をしよう」と、チーズに関しての旅はほとんどあきらめていました。

ところがです。
今年から始めたチーズの会で参加してくださった人達にチーズを紹介していく上で、やはり生の情報というものが必要ということを私以上に主人が強く感じたらしく、「思い切って行ってこい」と言ってくれました。旅の日程は9日間。娘は？仕事は？どうするつもりなの？「仕事を休んで、オレが響子（娘の名前）のめんどうを見る」と言いきる主人の言葉を半信半疑のまま、私も目的に向かって両親たちの説得にかかりました。

主人と娘の２人暮らしはきっと大変でしょう。
食事の用意、洗濯、などなどなれない家事まで背負わせてしまっては、9日間できっと仕事に戻れないほど疲れ切ってしまうのは目に見えています。ほどよい両親のフォローが必要と思いました。私の親は同じ市内に住んでいるのですが、主人の両親は東京です。半分半分の日程で主人と娘をまるごとお願いできないかと頼んでみました。

私の母からは「亭主に仕事を休ませることはない。（響子のことは）私がドンとめんどうを見ましょう。」と意外な言葉が…。
「ここまでに私のことを応援してくれているのね…お母さんありがとう……」とうるうる来たのですが、私の母はどうやら主人に気を使っていたようです。
「娘のこんなわがままを聞いてくれて申し訳ない。私にできる尻ぬぐいはやります」と（その気持ちもとてもありがたいことには変わりありません）。

あとは東京の両親の了解を得なくてはなりません。
「主人と娘のめんどうを見てください」とお願いする前に、「子持ち主婦の私がこのような勝手なことをしてもよろしいでしょうか？」と一応嫁としてお伺いをたてるのが筋だと思ったので、勇気を出して告白（？）してみました。すると快く「楽しんでおいで」と言ってもらえました。
わりと頑固で保守的な義父さんも「いいよ」と言う代わりに「お土産はアルコール類がいいなぁ…」とすぐに言葉を返してくれました。きっと２人とも「いったい嫁は何をしているのだろうか？」と不審がっているとは思います。チーズの勉強をしていったいなにになるのかとも（私にすら何になるのか全くわかりません）。
それでも私のしたいことを尊重してくれる、古い考えで私のことを縛らないでくれていることにとても感謝しないではいられません。

晴れてみんなのＯＫがとれたので、4月の中旬さっそく申し込みをしました。
ところが突然、それから約10日後、フェルミエの本間るみこ社長と初めてお会いして会食する機会がありました。チーズ界でアイドル的存在、まさか旅行の前に個人的に会うことができるなんて…。

その食事の席で「ツアーが始まる3日前にフランス入りして、サント・モールのお祭りに一緒に行かない？」と誘っていただいてしまったのです！！
「サント・モールのお祭り」とはシェーブルチーズで有名な「サント・モール・ド・トゥーレーヌ」というロワール地方の小さな町で毎年6月の第一日曜日に行なわれる、シェーブルチーズの品評会とお祭りで、田舎町らしい素朴で賑やかなお祭りだということは、本間さんの著書「チーズで巡るフランスの旅」で知っていたし、去年のチーズのツアーでは日程に入っていたそうで二葉さんからも話は聞いていました。
即答で「お願いします」と言ってしまったのですが、これ以上旅行の日程を延ばしますとは両親には言いにくく、結局何も言わないまま、もともと12日間の日程の旅行のようなふりをして旅立ってしまいました。ごめんなさ〜い！！

旅行にたつ前、私は主人や両親にはとても感謝していたのですが、ただ一人娘に対しては何の罪悪感も持っていませんでした。まだ小さく、幸いおかあさんっ子でないので、人に預けるということを軽く考えていました。預けるっていっても一応肉親だし。
旅行から帰ってきて、「とても健気で、わがまま一つ言わなかった」と聞きました。私と一緒だとあんなにわがまま言って甘えているのに、たったの2歳児でもやはり環境が変わると遠慮して大人しくしているものなんだと、少し不憫に思えました。
響子にも「お留守番ご苦労さま。お蔭でお母さん楽しかったよ」とわからなくても言ってやりました。「また１人で行かせてね」とも。

「行っといで！」