手のかかる大物ボーフォール


チーズのプリンスことボーフォールは、ひとつが40kgもある大きなチーズです。

このチーズの製造工場と熟成場を訪ねました。
朝9時頃に工場に到着すると、近隣の農家から絞りたての牛乳が次々と搬入されているところにでくわしました。軽トラックで運ぶ人、トラクターでやって来る人、リヤカーに積んで引っ張ってくる人といろんな方法での搬入ですが、みな大きなアルミ(ブリキかな?)の牛乳缶(40リットル入り)に入れて運んできていました。(昔アニメのフランダースの犬でネロ少年がリヤカーでミルク缶を引っ張っていた様子を思い出しました。)
何故昔ながらのミルク缶で運ぶかというと、仮にポンプで集めてタンクに貯蔵するとするとミルクの組織を壊してしまう恐れがあるからだそうです。いいチーズを作るためにはそこまで気を配らないとならないのです。

その他、美味しいボーフォールを作るためにいろいろこだわって守られている決まり事があります。
例えば、質の良いミルクの供給を維持するためにも一頭の牛から搾取する乳の量が、1年間5000リットルまでと決められているそうです。(日本の場合普通8000リットルくらい搾取するそうです)それからここでは本物の凝乳酵素(子牛の第4の胃を細かく粉にしたもの)を使用していました。普通の工場では市販のボトル入りの液状になったレンネットとか粉末状になったものを使用しているそうです。
何故子牛の第4の胃がミルクを固める酵素を含んでいるかというと、ミルクしか飲まない子牛は反芻する必要がないので1〜3番目の胃袋を使わず、ミルクの消化をする4番目の胃袋しか機能させていないそうです。乳以外を食べたり飲んだりしていないこの第4番目の胃がミルクを固めるのに最適なわけです。

ボーフォールを作るところを見せてもらいました。
大きな2000リットルも入る鍋(のようなもの)に集められたミルクを入れ、天然の凝乳酵素を入れます。ここでは撹拌やカードを切る作業は機械がしていました。
そして小麦の粒くらいにまでカードが細かくなったらポンプで吸い取りタンクに移し、チーズの型に詰めていきます。
ひとつが約40kgもの大きなチーズです。ここまでの作業はほとんどが機械がして、人間の仕事は気温やミルクの質によって凝乳酵素の量、温める温度、撹拌する時間などをカンによって調節していくことくらいです。そういうデリケートな部分はまだ機械には任せられないようです。

型に詰められたばかりのチーズは真っ白でした。約6ヵ月かけて熟成室で熟成され市場にでます。
工場の隣には山のがけを掘って作った熟成場(カーヴ)があり、常時約3000個ものボーフォールが熟成させられているそうです。カーヴの中にはまだ白っぽいもの、少し黄色みがかったもの、もう表面がオレンジ色になって強い匂いを発するものといろんな状態のチーズが並んでいました。

このボーフォール、6ヵ月間ただカーヴに並べられているのではありません。
毎日一つずつ反転(裏返す)させ、週に2回は塩を直接チーズにすりこみ、布で拭きます。そうすることによってチーズの中にいる100万個もの菌が活性化してアミノ酸などを作りだしチーズがだんだん美味しく熟成していくそうです。
カーヴの中の気温は10℃前後に、湿度も90〜95%保たれているため、吐く息は白くなり長時間居ると足の先や手の先の感覚がだんだん麻痺してきました。そんな中で1日1人で40kgのチーズを約500個も反転させる作業は重労働以外の何者でもありません。この反転作業や布で拭く作業をしながらチーズの健康状態を毎日チェックしているそうで、機械任せにはできないそうです。

こんなに手のかかるボーフォール、9ヵ月熟成させた「エテ」と呼ばれるチーズの試食をさせてもらいました。この「エテ」は山に咲き乱れる色とりどりの高山植物を食べた牛が出すミルクから作るので、干し草ばかりを食べている秋から冬に出すミルクから作るチーズに比べて味も色も濃く、香りも高いおいしいチーズでした。

聞くところによると、東京のチーズショップ「フェルミエ」では、このボーフォールがフランスからまるごと届くと、ボーフォールの熟成場と同じように毎日スタッフが反転作業をして週に二回は塩をして布で拭く作業を丹念にしているそうです。そこまでちゃんと管理をしてほんとにおいしいチーズが日本の食卓にも届くのです。

「ボーフォールの故郷のタリーヌ種の牛たち」




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