今月取り上げるチーズとワインをよりやさしくご説明をいたします。 チーズの詳しいプロフィールとかは「ゆうこのピックアップの該当ページ」をご参照ください。 ここでは実際に食べるときに即して、わかりやすく書いてみたいと思っています。 |
マコネ |
今、まさに旬の山羊乳のチーズ。山羊は春先に子供を産み、それから夏にかけてお乳を出します。自然の摂理からいうと、今がまさに旬なわけです。(最近では冷凍技術の発達で一年中チーズを作れるようになっていますが) 日本では山羊乳というのは馴染みが少ないかもしれません。しかしヨーロッパ諸国では牛乳と同じくらい普通に流通し、食文化にも浸透しています。山羊乳には牛乳とは違う独特のコクや匂いがあり馴染みの薄い日本人にとっては、抵抗があるという声もしばしば聞かれます。 最初はどんなシェーブル(山羊乳製のチーズの総称)を食べても同じような印象を持つものですが、食べ慣れてくると産地によって微妙な違いを感じます。例えばフランス国内でもいくつかのシェーブルチーズの名産地というものがありますが、有名な中〜西のロワール河流域と南東のローヌ河流域でも食べる餌の違いからか、山羊の種類の違いからか味わいに差があります。 今回ご紹介する「マコネ」はワインの産地として誰しも知っているブルゴーニュ地方で生産されているシェーブルチーズです。ブルゴーニュ地方はコート・ドール(黄金の丘)とよばれるなだらかな丘陵地帯でぶどうの栽培が盛んですが、農家はぶどう栽培ばかりをしているのではありません。肉牛を飼ったり(シャロレ種という有名な肉牛があります)、もちろんエポワスなどの牛乳のチーズを作るための乳牛を飼う農家、そのほか山羊などは小型で飼いやすい家畜として小規模な農家などではふつうに飼われています。 ブルゴーニュ地方にはシェーブルチーズの種類も実に豊富にあります。マコネは50g強の手のひらに乗るくらいの小さな円錐台状のシェーブル。若いうちは身はしっとりと詰まっていてミルクの甘みと酸味が同居する爽やかな味わい。熟成が進んできて水分が抜け硬くしまってくると独特のコクが生じてきます。やや若めの端正な味わいのものが食べやすいでしょう。 「マコネ」という名前はブルゴーニュ地方のマコンという町(さっぱりとしていながら味わい深いシャルドネ種の白ワインの産地)付近の呼び名から付いています。こうなると、マコン・ヴィラージュという村名ワインと合わせてみたいもの。リーズナブルなワインなので是非試してみましょう。 |
グラヴィエラ・クリティス |
ギリシャ料理に欠かせないチーズは「フェタ」。「ギリシャ風サラダ」にトッピングして日常的に食べられていることはよく知られています。フェタはすっかり有名になり世界中で認知され、ギリシャ以外の国でも「フェタチーズ」として生産されるほど。 ギリシャ本国ではフェタ以外にも今回ご紹介するグラヴィエラというチーズがとてもポピュラーです。グラヴィエラ・クリティスはクレタ島で造るグラヴィエラチーズということになります。暖かい気候のギリシャでは山羊や羊の飼育が盛んで、チーズも圧倒的にこの2種類のミルクを使ったものが多いようです。 グラヴィエラ・クリティスも山羊乳20%と羊乳80%の混乳のチーズです。このチーズの起源はスイスのグリュイエールチーズということですが、牛乳製のグリュイエールチーズに比べると強めの香りと味わいです。タンパク質、脂肪分の含有量の多い羊のミルクをたっぷり使っているためか普通のハードタイプのチーズより濃厚で甘みとコクを感じられるチーズに仕上がっています。 クレタ島では4月頃に生い茂る美味しい牧草を食べた時のミルクが一番美味しいとのこと。今回お届けするグラヴィエラはちょうどその頃に造り熟成をじっくりさせたもの。牛乳のチーズに比べると白っぽい身はギリシャの乾いた台地のような、そんなイメージまで持ってしまいます。 |
ハンジ |
匂いがかなりきびしい、とても個性的なチーズです。 フランスのドイツと隣接するアルザス地方のAOCチーズの「マンステール」を、塩水ではなくこの地方で作られる有名なゲヴェルツトラミネール種(白ワイン用のブドウ品種)の絞り粕で作ったマール(地酒)でチーズを洗って熟成させます。 ウオッシュタイプとはチーズを熟成させるときに塩水などで洗い、まわりにリネンス菌という細菌を繁殖させることにより、薄オレンジ色でベタベタとした湿っぽさがチーズの表面を覆います。このベタベタはあの納豆菌と通じるものがあります。納豆菌と同様に、リネンス菌がチーズのタンパク質を美味しい成分に変化させているのです。 匂いもかなり個性的で、お漬物のようなひねた香りが特徴です。はっきり言って「臭い」匂い。でも匂いのわりには味は優しいので、匂いで「うっ」っと来たら鼻をつまんで食べてみてください。芳醇なミルクのコクが口中に広がるでしょう。 薄いオレンジ色のベタベタと湿った表皮からは古漬け、あるいはご不浄のような匂いがしています。ウオッシュタイプのチーズになれていない人がこの匂いだけを嗅ぐと、まさかこれが食べ物であるとは信じられないと思います。 しかし匂いが臭いのは表皮だけで、チーズの中身のクリーム色の部分はいわゆるチーズの匂いしかしません。しかも味わいも優しいミルクの甘みが充分に楽しめて非常にマイルドです。ちょっと塩分がきつく感じられるようでしたら、チーズだけを食べるのではなくバゲットや小麦全粒粉やグラハムを使って焼き上げた黒パンのスライスの上にちょこんとのせて食べると、それほど気にならなくなるでしょう。 一番のマリアージュは同郷の「ゲヴェルツトラミネール」(白ワイン)といわれていますが、もちろん柔らかいタンニンを感じる赤ワインとの相性も抜群です。是非ワインと合わせて食べて欲しいチーズです。
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